2006年02月03日

立ち読みの技術

 シンガポールの紀伊国屋は目抜き通りのオーチャードの中心、Ngee Ann Cityにある。先日雑誌コーナーで一冊手にとって眺めていたらふと気がついた。

「日本には立ち読みの技術と文化があるなあ」
と。
 シンガポールの紀伊国屋は目抜き通りのオーチャードの中心、Ngee Ann Cityにある。先日雑誌コーナーで一冊手にとって眺めていたらふと気がついた。

「日本には立ち読みの技術と文化があるなあ」
と。

 当地の書店では紀伊国屋書店に限らず 主要な雑誌のほとんどはビニールカバーをかけられ、気軽に中を覗けない工夫がされている。
 勿論当地の検閲にひっかかるポルノや酷い暴力描写や政治的記事についてはレベルによって発禁からページ削除やマジックでの塗りつぶしやビニール袋でのカバーが為されている場合があるが、そういった検閲対象でない本のカバーは立ち読み対策であろう。

 当地において書店にいる客を放っておけば客の立ち読みはエスカレートする。
 勝手にビニールを外し、ページに痕が残るようなめくり方をし、床に座り、雑誌の積まれた山に座る。特に若年層に多いようだが、Weelock PlaceにあるMPHの絵本コーナーにおいてはもうぼろぼろになった冊子が辺りに散乱している。

 出版社/本屋にとってロスが出る。全うな客にとって吟味の機会を失われる。
そして雰囲気が乱れる。


 一方日本では立ち読みの技術と文化がある。

 昔書店ではカウンターに万年座っている店主がにらみを聞かせて客に無言の脅しをかけていた。
 また店先の雑誌を読破しようとする客に 本屋のおばちゃんははたきで圧力をかける。
 客は立ち読みを続けることに後ろめたさがあるので、自分が立っている場所を譲り 本を買おうとする人の為に空間をあける。
 混み合ってきたことを気にして立ち読みを切り上げる。
 立ち読みをして気に入って買おうと決めた本は、多少皺になっているが自分が立ち読みをしたその本を買う。
 店主は立ち読み自体が文化的行為であるようにある程度許容し、検討のよちを客に与える。

 日本には立ち読みの技術と文化があって、シンガポールには無かった。

 近年はどうだろうか。
 日本のそれは影を潜め、シンガポールのそれは育ちつつあるのかもしれない。



P.S.
日本の本屋は出版社に返品出来るので立ち読みによるロスをあまりダメージと考えなかったのかもしれませんね。シンガポール側ではどういうシステムなのか、実は未だ調べていません。
同じカテゴリー(General)の記事
Posted by 岩田 弘志 Hiroshi Iwata at 23:46│Comments(4)General
この記事へのコメント

はじめまして。
日本全国区では分かりませんが、愛知県には「らくだ書店」という比較的この地域では大きな書店があり、立ち読みならぬ座り読みを推薦してくれています。そのため店内には大きなベンチがいくつも置かれ、皆がそのベンチに座り吟味しています。図書館のように使っている人も中にはいますが、この書店は24時まで運営されていて夜遅くまで多くの人が利用しています。
この社長のアイデアは全国に広まったのか、座り読みを推薦する店が増えていると聞きました。活字を読むことから遠ざかってるとは思えない世界がらくだ書店にはあります。http://www.rakuda.ne.jp/bookers/
これが新しい日本の書店文化になっているのなら、海外でもこういった文化がどんどん広まっていくといいなと思います。
Posted by tomoko at 2006年02月05日 10:12

マレーシアの紀伊国屋さんも同様にプラスチック袋で覆われています。
以前の社員さんに聞いた際、その方の返答は「あ〜、あんなんじゃんじゃん破って立ち読みしてやぁ。かまへん、かまへん」でした。
ただ、海外店の雑誌は出版社に返品不可らしいので、リスキーなのだと伺いました。
Posted by TOMOMI@南国美白の裏ワザ at 2006年02月05日 10:36

TOMOMIさん、海外の紀伊国屋は本を全て買い取った上でお店に並べているんでしょうかね。
(機会があったら聞いてみたいと思います)
とすれば「運送料を入れても高すぎるだろ」と思える高額な価格には 売れ残りのリスクプレミアムが入っているのかもしれませんね。
確かに売れ筋と思われるものに比べて売れにくいかなと思われるものの 現地価格/定価 は高く設定してあるような気がします。
Posted by 岩田弘志>TOMOMIさんへ at 2006年02月05日 17:14

はじめてのコメントありがとうございます。
らくだ書店さんは既に名古屋市とその周辺で3店舗を運営されていらっしゃるんですね。
他の都市にもいくつか いわゆる「座り読み」が出来る書店があると耳にしました。

数年前からビジネスは win-win でいこうというスタイルがよく言われるようになり、最近ではロハスの登場で持続性と全体調和性がよく言われるようになりました。
結局のところ早期の売り逃げは商売であって、経営は社会へのコミットが必用十分条件という考えが多くの人に浸透してきたのではと思います。

そういう観点から書店の運営側もお客側も高い意識があれば「立ち読み・座り読み」サービスが可能になるのだと思います。
(ただ私自身にはそもそも”参照”の為の立ち読みが、座り読みまで必用かどうかは疑問です)

日本の中でも比較的モラルが高く、そして相互干渉の高い地域では「座り読み」サービスもビジネスの中で機能すると思います。
一方東京の渋谷や池袋などといった都市では難しいのではないかと思います。

そしてシンガポールはFine Cityと揶揄されます。
これは 晴れやかな都市 という意味と、規則だらけの都市 という意味をかけて表現されています。
それだけにルールの無いところではまあいいだろう、他人が見ていなければまあいいだろう、的な考えが当地の心の根深いところにあります。

シンガポールはかつてよりはモラルの度合いが高まってきており、立ち読みのマナーも上がってきている気がしますが、こと路上の運転に関してはまだまだ頭を抱えることが多いです。

さて、このシンガポールで座り読みを他社との差別化としてやるならばどうでしょうか。
とても面白そうに感じます。
かつての街の本屋さんのように にらみをきかせたおばちゃんや はたきを持った親父を
配置したらいいかもしれません。

本を売るという付加価値と共に、思いやりを情勢するという付加価値もその書店で提供出来るかもしれませんね。
Posted by 岩田弘志>tomokoさんへ at 2006年02月05日 17:28
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。